ハインリッヒ・フォン・クライスト─「政治的なるもの」をめぐる文学

Heinrich von Kleist

大宮勘一郎、橘宏亮、西尾宇広、R・クリューガー、G・ノイマン、W・ハーマッハー、H・ベーメ 著
大宮勘一郎、橘宏亮、西尾宇広 編訳

定価:本体4,400円+税
2020年3月19日書店発売

四六判上製 364頁
ISBN978-4-900997-78-3
装幀:間村俊一
アッサンブラージュ:勝本みつる

今こそアクチュアルな例外状態の文学。シュミット、アガンベンからクライストを読む!

19世紀初頭を駆け抜けたドイツの天才劇詩人・クライスト。「チリの地震」「ミヒャエル・コールハース」「壊れ甕」そして「ペンテジレーア」など、日本でも長年親しまれ──鷗外が驚愕し芥川が激賞し太宰が傾倒した──、カフカ、ヴァルザー、グラック、J・M・クッツェー、あるいは多和田葉子、さらにカール・シュミットやジル・ドゥルーズ、ポール・ド・マンらを魅了してきたクライストの作品世界を、「政治的なるもの」を斬り口に、そのアクチュアリティを抽出する。国家の創設と防衛、戦争と例外状態、人民軍、共和制と愛国主義、公共圏と君主制など、クライストの作品世界の形姿は「政治的なるもの」=実存を賭した抗争に覆われていると言っても過言ではない。吊り支えられる崩壊と破局の美学を根底にした、ギリシャ悲劇(「アンティゴネー」「バッカイ」)に通じるその高貴な劇的世界に新たな光を当てる、本格的にして野心的な初のクライスト論集。書き下ろし力作評論三篇に、ノイマン、ハーマッハーを初めとするドイツでの最重要論文四篇を併せて訳出。略伝、作品梗概併録。

戦争は「国民」同士による、おのれの存否を賭した全的な争いへと変貌する。「国民」というこの新たな、「一般意志」を担う唯一の「身分」がそのまま国防を、とはすなわち彼ら自身の存在と存立を自ら護り保つ主体として組織化される。ここに、「政治(Politik)」に代えて「政治的なるもの(das Politische)」という概念の必然性も生じる。それはまさに、ある共同体の創設、自立あるいはその秩序そのものが観念的にではなく現実的に問われるような危機的、ないし例外的事態に関わるような概念化である。「政治的なるもの」は、「実存的(existenziell)」な概念なのである。クライストの文芸テクストにおいては、まさしく危機の中から、それでもある一つの政治的フォルムが、高い緊張をはらみつつ、何よりも詩的に現れでる。(まえがきより)