瞬間の山
形態創出と聖性
港千尋 写真集
定価:本体7,500円+税
2002年3月20日書店発売
B4変型判(230mm×290mm) 128頁
写真 カラー29点、ダブルトーン51点
ISBN4-900997-05-6
アートディレクション:間村俊一
時空を超えて屹立する魂の山。アルプス、オーストラリア、インドネシア、沖縄……。世界各地にそのイメージの反復と変質を辿り、モルフォジェネティックな連鎖に永遠の聖性を刻む.。アートとフィールドワークが見事に融合した傑作作品群。
ランドネの道
新しい写真集を『瞬間の山』と名づけた。アルプス、沖縄、バリ島、オーストラリア……、世界各地の山をめぐるイメージの旅である。モンブラン山塊やエアーズ・ロックといった有名な山といっしょに、南仏の中庭にポツンとたたずむ苔生した岩や、千葉県館山の通称「崖観音」といった、知る人ぞ知る場所が並んで出てくる。いわゆる〝百名山〟ではない。旅先で出会う不思議な自然の造型に驚き、そうしたかたちに人間が付してきた聖性を思うところから、この旅は始まっている。
山歩きのことをフランス語ではランドネと言う。本格的なアルピニズムとは区別して使うこの言葉は、英語のランダムと語源を共にする。その昔、狩猟用語として使われたランドネは、左へ右へと逃げてゆく獲物の動きを表していた。追われる動物の予想のつかない偶然の動きという意味から、見通しの悪い野山の曲がりくねった道や、ランダムといった意味が派生したのだろう。
一枚の写真のなかにおさまっているのは、ひとつの山だが、同じ山がほんの数分歩いただけで、まったく違うかたちに姿を変えてしまう。今見ている山は、瞬間の山に過ぎない。ひとつの山に、すべての山のかたちを発見する、眼差しによるランドネが写真の面白さである。
写真とは、一のなかに多を望むための、希望の技術なのだ。いまある世界を唯一のかたちとして受け取るのではなく、そこに隠されている無数の、未だ来たらないかたちを発見すること。時代の危機に人間が求められているのも、同じことであろう。
港千尋
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