カリブ海序説
エドゥアール・グリッサン 著
星埜守之・塚本昌則・中村隆之 訳
定価:本体6,200円+税
2024年11月25日書店発売
四六判丸背上製 かがり綴カバー装 768頁
ISBN978-4-86784-004-7
装幀:間村俊一
カバー装画:シルヴィー・グリッサン
カリブ海のフランス海外県・マルチニックにあって、その歴史・社会構造・言語・人々の心性のありようを、アンティル(カリブ海諸国)、とくにマルチニックに関わる厖大な言説を収集・分析しつつ明らかにし、フランスへの依存を逃れ、主体的な民衆による自立を訴求する。全篇を覆う危機意識、はるかに展望される独立への眼差し。世界各地で民衆の抵抗が無化されつつある現在をも問いに付す、時代を超えたアクチュアリティを具えた大著であり、多様なジャンルで著述活動を行なってきたグリッサンの結節点をなす、最大にして最重要作。
序章
1 「閉鎖的」状況からの出発
2 ある言説についてのこの言説から出発して
3 『詩的意図』から出発して
4 『憤死』から出発して
5 しばらく前に遠方でなされたある発表から出発して
6 混ぜ合わされた昨日と今日の痕跡の数々から出発して
7 叫びから出発して
8 『アコマ』から出発して
9 連帯的な仕事から出発して
10 風景から出発して
11 口承の欠如とクレオール語から出発して
第一巻 知っていること、確かならざるもの
剥奪
目印 年代記の罠
12 帰還と迂回
目印 労働
13 為すことと創ること
14 端緒
目印 フランス化
15 出来事
目印 諸関係の「歴史的論理」
16 剥奪
17 抵抗
18 本国移民、移民の子供たち
19 邦
アンティル的体験
目印 二言語的言説
20 集団の構造と緊張関係
21 家庭なき家族?
22 出来事
23 不安定の複数の根拠
24 単一植民地主義 一九七三─一九七九
25 お笑い草のエピソード
26 邦
〈歴史〉、複数の歴史
目印 罠としての〈歴史〉
27 〈歴史〉との争い
28 カリフェスタ 一九七六
29 〈歴史〉と〈文学〉
目印 取り逃した機会
30 断面と時代区分
31 歴史、時間、アイデンティティ
32 痕跡/踏みわけ道
目印 テクストの歴史化
社会学
目印 三つの言説
33 ある文化社会学のために
34 文学と生産
第二巻 関係の詩学
さまざまな国民文学
目印 要約のかたちで
35 〈同一なるもの〉と〈多様なるもの〉
36 さまざまな技術
文化的行動、政治的実践
目印 問題提起のかたちで
37 方法について
38 文化的行動
さまざまな風景、邦々
目印 書かれたものの苦しみ
39 言葉のただなかで
40 音楽
41 受け容れること
42 チリ
43 キューバの風景
さまざまな詩学
目印 クレオール語の策略
44 自然な詩学、強制された詩学
45 関係の詩学
46 「アメリカの小説」
47 モントリオール
48 ここの詩人たち
49 ハイチの夕べ
50 議論
51 狩猟
52 《虹》のために
53 ハイチの絵画について
第三巻 砕け散った言説
無意識、アイデンティティ、方法
目印
54 詩学と無意識
55 さまざまな極、さまざまな提案
56 快楽と享楽─マルチニックの体験
57 塵
58 邦
59 他者の眼差し
60 理由なき暴力
複数の言語、共通の言語活動
目印 クレオール語と生産
61 言語、多言語主義
目印 多言語主義
62 文学教育について
目印 島々のフランス語
63 ケベック
目印 見える断面と見えない断面
64 文書
目印 言語活動とアイデンティティ
65 教育法、衆愚法
66 クレオール語
目印 現実の諸様態と文学の諸構造
67 あまり接近して走らないでください
68 私は釣り針を買った
69 分かち持たれたクレオール語
目印 多言語主義─現代性
70 国民の言語活動
71 そしてたしかに
言語の錯乱
目印 錯乱の諸形態
72 (交差)
73 「日常の」言語錯乱について
74 ある事前調査について─シュフランの場合
75 (再現イデオロギーについての覚書)
76 アフリカ、アフリカ
演劇、民衆の意識
77 (路上で)
78 演劇、民衆の意識
79 ある実践について
80 話される著述について
81 クレオール語の著述について
第四巻 アンティルの未来
アンティル性のために
目印 返答と贈答のかたちで
82 願望、現実
83 『正当防衛』について
84 サン=ジョン・ペルスとアンティル人
85 文化的アイデンティティ
86 単一の季節
いくつかの声
87 イメージの銀河は島々をなす
88 『ボワーズ』から出発して
89 カルデナスの彫刻のための七つの風景
90 散乱
91 文学について
92 出来事
いくつかの開かれ
目印 「著述」の終わり
93 消費
94 民と言語活動
95 五月二十二日
96 さまざまな決意、ひとつの決意
附録
ディアスポラの図
用語解説
日付と場所
原註
解説 中村隆之
訳者あとがき 塚本昌則
訳者あとがき 星埜守之
関連地図
著者
エドゥアール・グリッサン(Édouard Glissant)
1928年〜2011年。ともにマルチニック出身の、エメ・セゼール、フランツ・ファノンらと並ぶ20世紀カリブ海思想の牽引者。〈関係〉の詩学、〈全─世界〉の思想と呼ばれる独自の思想を深化させ、世界的に大きな影響を与えた。小説家・詩人でもあり、小説『レザルド川』(恒川邦夫訳、現代企画室)、『第四世紀』(管啓次郎訳、インスクリプト)、『憤死』(星埜守之訳、水声社)、『奴隷監督の小屋』(中村隆之訳『痕跡』、水声社)、『マホガニー─私の最期の時』(塚本昌則訳、水声社)、評論『〈関係〉の詩学』(管啓次郎訳、インスクリプト)、『全─世界論』(恒川邦夫訳、みすず書房)、『フォークナー、ミシシッピ』(中村隆之訳、インスクリプト)、『多様なるものの詩学序説』(小野正嗣訳、以文社)、『ラマンタンの入江』(立花英裕・工藤晋・廣田郷士訳、水声社)、政治声明『マニフェスト─政治の詩学』(パトリック・シャモワゾーとの共著。中村隆之訳、以文社)など、主要な著作はほぼ既訳がある。本書は唯一残された主著『カリブ海序説』の完訳である。
訳者
星埜守之(Moriyuki Hoshino)
東京大学名誉教授.20世紀フランス文学,フランス語圏文学,シュルレアリスム研究.著書に,『ジャン=ピエール・デュプレー―黒い太陽』(水声社),『文化解体の想像力─シュルレアリスムと人類学的思考の近代』(共著,人文書院),『シュルレアリスムの射程─言語・無意識・複数性』(共著,せりか書房)他.訳書に,エドゥアール・グリッサン『憤死』(水声社),パトリック・シャモワゾー『テキサコ』(平凡社.渋沢クローデル賞フランス大使館エールフランス特別賞),アンドレイ・マキーヌ『フランスの遺言書』(日仏翻訳文学賞),『ある人生の音楽』(いずれも水声社),ミシェル・ウエルベック『H・P・ラヴクラフト─世界と人生に抗って』(国書刊行会),ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』(上下.共訳,集英社.日本翻訳出版文化賞),ジェイムズ・クリフォード『リターンズ─二十一世紀に先住民になること』(みすず書房),『文化の窮状』(共訳),『人類学の周縁から―対談集』(いずれも人文書院),アンドレ・ブルトン『魔術的芸術』(共訳,河出書房新社)他.
塚本昌則(Masanori Tsukamoto)
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授.近現代フランス文学,ヴァレリー研究.著書に『写真文学論─見えるものと見えないもの』(東京大学出版会),『目覚めたまま見る夢─20世紀フランス文学序説』(岩波書店),『フランス文学講義─言葉とイメージをめぐる12章』(中公新書),『ヴァレリーにおける詩と芸術』(共編著,水声社),『写真と文学』(編著,平凡社)他.訳書に,エドゥアール・グリッサン『マホガニー─私の最期の時』(水声社),パトリック・シャモワゾー『カリブ海偽典(最期の身ぶりによる聖書的物語)』(紀伊國屋書店.日本翻訳文化賞),ラファエル・コンフィアン『コーヒーの水』(紀伊國屋書店.渋沢クローデル賞ルイ・ヴィトン特別賞,日仏翻訳文学賞),ポール・ヴァレリー『ドガ ダンス デッサン』(岩波文庫),『レオナルド・ダ・ヴィンチ論』(ちくま学芸文庫),『ヴァレリー集成Ⅱ 〈夢〉の幾何学』(筑摩書房),ロラン・バルト『記号学への夢─1958─1964』(ロラン・バルト著作集4.みすず書房)他。
中村隆之(Takayuki Nakamura)
早稲田大学法学学術院教授.フランス語を主言語とする環大西洋文学,広域アフリカ文化研究,批評,翻訳.著書に,『エドゥアール・グリッサン─〈全─世界〉のヴィジョン』(岩波書店),『環大西洋政治詩学─二〇世紀ブラック・カルチャーの水脈』『カリブ─世界論─植民地主義に抗う複数の場所と歴史』(いずれも人文書院),『第二世界のカルトグラフィ』(共和国),『野蛮の言説─差別と排除の精神史』(春陽堂書店),『魂の形式 コレット・マニー論』(カンパニー社)他.訳書に,エドゥアール・グリッサン『マニフェスト─政治の詩学』(パトリック・シャモワゾーとの共著.以文社),『痕跡』(水声社),『フォークナー,ミシシッピ』(インスクリプト),アラン・マバンク『アフリカ文学講義─植民地文学から世界─文学へ 』(共訳,みすず書房),ルイ・サラ=モランス『黒人法典─フランス黒人奴隷制の法的虚無』(共訳,明石書店),『ダヴィッド・ジョップ詩集』(編訳,夜光社)他。
画家
シルヴィー・グリッサン(Sylvie Glissant)
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