「水平社宣言」とその時代
友常勉 著
定価:本体3,600円+税
2025年12月17日書店発売
四六判上製 カバー装 392頁
ISBN978-4-86784-011-5
装幀:間村俊一
カバー写真:港千尋
1922年3月3日京都岡崎公会堂での「全国水平社創立大会」で採択された「水平社宣言」。奈良県の部落青年たちによって結成された「燕会」に始まる自主的な運動は、幅広い協力者を得て大きなうねりへと変わっていった。本書は日本思想史、近現代部落史研究に長年取り組んできた著者が、これまでの研究成果を踏まえ、新しい視点から「水平社宣言」の表現と思想、宣言に至る過程とその後の展開に詳細な検討を加え、明治期からの社会的状況、宣言の時代性を考察するとともに、移民と差別、人種主義、ジェンダー的観点からの性差別批判、それらが交差するインターセクショナルな視点を交え、反差別と解放の思想をあらためて紡ぎなおした、渾身の著作である。明治期から現代に至る大衆運動を考える際にも重要な、アクチュアリティを具えた必読書。
こうして、言語に内在する「自然」で習慣的な、しかし暴力をはらんだ構文の構造を前提とした、差別主義的で敵対的な言説群が形成された。そのようにして・・・、身分的-カースト的なレジームの存在と、人種主義とは結託する。これが性差別主義や優生思想とれんらくして文化交差性(インターセクショナリティ)をつくりだす慣習化した差別主義でもあった。翻って、「水平社宣言」は、「水平」という用語の採用によって、その急速な拡大をつくりだし、流行語とすることで、差別主義の統辞構造に対抗して、反差別と解放のための思想を、あらたに統辞構造化したのである。(本文より)
はじめに
第一章 『よき日の為めに』と「水平社宣言」の思想
1 『よき日の為めに』
2 「水平社宣言」
第二章 旦那場慣行と明治近代
1 旦那場
2 長州藩天保大一揆と被差別部落
3 岡山藩・津山藩における「かわた」と旦那場
4 博奕慣行
第三章 政治空間の開拓─自由民権運動、大逆事件、米騒動、『明治之光』
1 明治・大正期の「部落問題文芸」の物語
2 自由民権運動─中江兆民『新民世界』『民約訳解』と西浜地域の部落
3 三𠮷と春団治
4 島崎藤村『破戒』の試み
5 大逆事件
6 米騒動
7 社会的危機と逵田良善
8 水平社へ
9 『明治之光』の意味
第四章 大正期〈生〉の思想と生政治
1 大正生命主義と三浦大我「貫目ある生活」
2 西光万吉との対峙─「死神と人間」「最高相の文化」(一九二一年・大正一〇)
3「生の哲学」と大正生命主義
4 帝国主義、人種主義、農本主義
第五章 「産業的殉教者」の世界
1 奈良・掖上村柏原北方のヘゲモニー闘争
2 膠製造業
3 皮革産業
4 「旦那場」と南アジア・ダリト身分のトリル・ヴェーライ
5 地域共同体のなかの被差別民たち
6 忌田
第六章 徹底的糾弾
1 徹底的糾弾
2 世良田事件
第七章 ジェンダーとサバルタン
1 婦人水平社と「ケイ」の論考「部落婦人の立場から」
2「阪本数枝日記」
3 サバルタンの表象─阪本ニシ子と「つとめ」の世界
4 乾武俊による民俗伝承調査
第八章 移民
1 前史からハワイ移民まで
2 北米移民
3 “Japan’s Outcastes in the United States”
第九章 聖‐賤の系譜学─歴史・民俗・芸能
1 高橋貞樹『特殊部落一千年史』
2 網野善彦
3 芸能
4 バスクのアゴテ
第一〇章 天皇制、人種主義、等価性
1 包摂と「秩序的近代」
2 融和主義、人種主義、植民地主義
3 郷党の思想
4 「兄妹心中」と等価性
5 西光万吉
終章
註
あとがき
初出一覧
索引
著者
友常勉(ともつね つとむ)
1964年生まれ。東京外国語大学大学院国際日本学研究院教授。日本思想史、地域研究。著書に、『夢と爆弾─サバルタンの表現と闘争』(航思社、2019年)、『戦後部落解放運動史─永続革命の行方』(河出書房新社、2012年)、『脱構成的叛乱─吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』(以文社、2010年)、『始原と反復─本居宣長における言葉という問題』(三元社、2007年)など。
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