脱植民地的開発──植民地権力とマヤ
ジョエル・ウェインライト 著
太田晋 訳
定価:本体3,900円+税
2024年1月30日書店発売
四六判丸背上製 かがり綴カバー装 448頁
ISBN978-4-86784-001-6
装幀:間村俊一
ジェイムズ・M・ブロート賞を受賞し、高い評価を得たジョエル・ウェインライトの主著である本書は、開発としての資本主義を問題化する。グローバル資本主義は、貧困を減少させることなく不平等を増大させ、世界のある地域を富ませ、他の地域を貧しくしてきた。「開発」は甘い餌である。資本主義的発展や成長を求めることが、一方で植民地主義的な介入を招き入れる──本書は、このアポリアに向きあい、グラムシ、フーコー、デリダ、スピヴァク、柄谷行人を導きの糸に、開発としての資本主義を理論的・根底的に批判しつつ、植民地的介入を拒みつつ発展する方途を模索する。マルクス主義とポストコロニアリズムを架橋して、開発をテーマにマルクスやグラムシをサイードやスピヴァクと批判的に接続、中米ベリーズ(マヤ)に軸足を置いて繰り広げられる、権力の一形態としての開発の歴史と政治への考察は、ラス・カサスからジャレド・ダイアモンドに至る「マヤニズム」言説が反復的に生産される過程をも詳細に分析する。資本=ネイション=国家について考える際にも好個の、理論・分析・実践のバランスのとれた好著。
いかにして資本主義は、開発の名の下に不平等を再生産しているのか。そして実のところ、資本主義社会の諸関係の深化が開発として受け取られることになるというのは、どのようにしてなのか。
本書はポストコロニアルなマルクス主義のレンズを通して植民地主義と開発を探究することで、そして今日ではベリーズ南部として知られる地域の植民地化と開発を考察することで、こうした問いに答えるための場を開くものだ。
[…]
私たちが「開発」を召喚しつつ資本主義について語っているということの分析的な明晰さを保持し、開発の問いを完全に放棄することなくして、開発をより根源的な批判に開くには、どのようにすればよいか。
開発としての資本主義という概念を提案することが、この挑戦への私の答えだ。
[…]
今日の開発において把握できる支配的な主題は、資本主義、入植=定着、そして信託統治である。西洋の植民地主義から相続されたこれらの主題が、開発を支配している。新たに思考するためには、そして予期せぬ形態の開発に向けて思考するには、これらの主題から開発を解放することが必要である。これを実行するには、実験的なポストコロニアル・マルクス主義が必要になるだろう。資本主義と開発との二重の意味での結合、すなわち開発としての資本主義は、植民地主義において形作られ、帝国主義権力を持続させている。私たちは今後も、この権力を不安定化し、開発への資本主義の付着を切断しなければならない。開発を脱植民地化する挑戦とは、以上のようなものである。(本文より)
図版一覧
略記一覧
謝辞
序 開発としての資本主義
第一部 マヤを植民地化する
第一章 ベリーズ南部の植民地地理を不安定化する
第二章 マヤ農地システムの問題
第三章 マヤニズムの考古学
第二部 開発のアポリア
第四章 植民地の知から開発の知へ─チャールズ・ライトとコロンビア・リヴァー・フォレストをめぐる闘争
第五章 入植/定着─開発の廃墟におけるフィールドワーク
第六章 文化生態学批判を終える─『マヤ・アトラス』を読む
結論
訳者あとがき
原註
参照文献
索引
著者
ジョエル・ウェインライト(Joel Wainwright)
オハイオ州立大学地理学部教授。地理学に携わるかたわら、ポストコロニアリズムとマルクス主義の立場から、開発の政治経済/環境・農業の変化/社会理論などを専門テーマとして、多くの論考・発言を行なう理論家であり、ベリーズの森林伐採への対抗運動、農業開発によって奪われた先住民の土地奪還運動などに関わるパルチザンでもある。ジェイムズ・M・ブロート賞を受賞した主著である本書Decolonizing Development: Colonial Power and the Maya (2008) のほかに、Geopiracy: Oaxaca, Militant Empiricism, and Geographical Thought (2012)、Climate Leviathan(2017、共著)、Rethinking Palestine and Israel: Marxist Perspectives(2019、編著)などの著作がある。
訳者
太田晋(Shin Ota)
成城大学法学部法律学科教授。イギリス文学。訳書にリチャード・クライン『煙草は崇高である』(共訳、太田出版、 1996)、ハイメ・マンリケ『優男たち ─アレナス、ロルカ、プイグ、そして私』(青土社、2006)、ロバート・イーグルストン『ホロコーストとポストモダン』(共訳、みすず書房、 2013)、アンディ・パートリッジ、トッド・バーンハート『XTC コンプリケイテッド・ゲーム』(DU BOOKS、2017)など。論考に「『ユリシーズ』を読む I・II」(『批評空間』 II–9・II–11、1996年)、「再分配の詩的正義 エズラ・パウンドの異端的経済論」(『批評空間』III–3、2002年)、「あなたとわたしとブラウン夫人と 『容疑者の夜行列車』のためのジャンクション」(『ユリイカ』2004 年 12 月)、「STAR-STRUCK c/w チョコレット・クローゼット」(『ユリイカ 総特集・稲垣足穂』2006 年 9 月)などがある。
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