エル・スール 新装版
アデライダ・ガルシア=モラレス 著
野谷文昭・熊倉靖子 訳
定価:本体1,800円+税
2024年4月10日書店発売
四六判丸背上製 カバー装 136頁
ISBN978-4-86784-005-4
装幀:間村俊一
カバー装画:映画『エル・スール』より © 2005 Video Mercury Films S.A.
〈南〉を訪れる直前で中断された、ビクトル・エリセの名作『エル・スール』の原作。映画では描かれなかった後半部、物語のクライマックスが、いま明らかになる。父はなぜ沈黙のうちに閉じこもっていたのか。憧れの父の死を契機にセビーリャへ赴いた少女の見たものは……。映画製作当時、エリセの伴侶として彼に霊感を与えたアデライダ・ガルシア=モラレスによる、時代を超えた成長小説。2009年刊行の同内容の小説を新装版として刊行。
映画「エル・スール」は、クレジットにあるように、同じタイトルをもつ中篇小説を原作としている。その中篇は、一九八一年にすでに執筆されていながら、映画が制作された時期にはまだ本になっていなかった。著者はアデライダ・ガルシア=モラレス、当時はエリセの夫人だった作家である。映画がヒットしたおかげで、中篇「エル・スール」はもうひとつの中篇「ベネ」と併せて一冊の本になり、一九八五年に刊行されるとたちまち版を重ね、多くの読者を獲得したのだった。
[……]
ところで、映画を観た読者の興味をそそるのは、やはり小説の終盤で語られる、主人公の南への旅だろう。エリセが撮りたくても撮れなかった部分だ。この旅で彼女は父親の別の顔を知り、自殺の謎を解明することになると同時に、この旅によって少女自身が成長する。彼女の旅は、この小説にビルドゥングスロマン(教養小説)としての性格を付与していると言える。また、そこに地理的、文化的な北と南の和解というテーマを読み込むことも可能だろう。もっともそれはアデライダよりもエリセにいっそう親しいテーマではあるが。(野谷文昭、訳者解説より)
エル・スール
訳者解説
著者
アデライダ・ガルシア=モラレス(Adelaida García Morales)
1945年、スペイン、バダホスに生まれる。その後セビーリャに移り、1970年、マドリード大哲文学部哲学科を卒業。国立映画学校で脚本を学んだ後、中学校の教師、女優などを経て、1985年、第一作El Sur seguido de Bene(『エル・スール/ベネ』)をアナグラマ社から刊行。同年に刊行したEl silencio de las sirenas (『セイレーンたちの沈黙』)では、エラルデ小説賞を受賞。90年代に多産な執筆活動を展開し、今世紀に入っても新作の発表を続けた。2023年没。
訳者
野谷文昭(Noya, Fumiaki)
1948年、神奈川県川崎市生まれ。スペイン・ラテンアメリカ文学研究者、翻訳家。東京大学、名古屋外国語大学、立教大学名誉教授。
【著書】『ラテンアメリカ文学案内』(共編著、冬樹社、1984)、『越境するラテンアメリカ』(パルコ出版、1989)、『ラテンにキスせよ』(自由国民社、1994)、『世界×現在×文学——作家ファイル』(共編著、国書刊行会、1996)、『マイノリティは創造する』(共編著、せりか書房、2001)、『マジカル・ラテン・ミステリー・ツアー』(五柳書院、2003)、『ラテンアメリカン・ラプソディ』(五柳書院、2023)他。
【訳書】ガブリエル・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(新潮社、1983)、『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語 ガルシア=マルケス中短篇傑作選』(河出書房新社、2019/『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』と改題して河出文庫、2022)、マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』(集英社、1983/集英社文庫、2011)、『赤い唇』(〈集英社ギャラリー[世界の文学]〉19、1990/集英社文庫、1994)、『蜘蛛女のキス』(戯曲、劇書房、1994)、『南国に日は落ちて』(集英社、1996)、アルフレード・ブライス=エチェニケ『幾たびもペドロ』(〈ラテンアメリカの文学〉18、集英社、1983)、「パラカスでジミーと」(短篇、〈集英社ギャラリー[世界の文学]〉19、1990)、アンドレス・オメロ・アタナシウ「時間」(短篇、同前書)、オクタビオ・パス「青い目の花束」「見知らぬふたりへの手紙」(短篇、『ラテンアメリカ五人集』集英社文庫、1995。のち改訳、後者は改題「正体不明の二人への手紙」2011)、『鷲か太陽か?』(書肆山田、2003/岩波文庫、2024)、セネル・パス『苺とチョコレート』(集英社、1994)、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『七つの夜』(みすず書房、1997/岩波文庫、2011)、「バベルの図書館」(短篇、雑誌『MONKEY』vol. 31、スイッチ・パブリッシング、2023)、マリオ・バルガス=リョサ『フリアとシナリオライター』(〈文学の冒険〉国書刊行会、2004/河出文庫、2023)、『ケルト人の夢』(岩波書店、2021)、パブロ・ネルーダ『マチュピチュの頂』(書肆山田、2004)、フリオ・コルタサル『愛しのグレンダ』(岩波書店、2008)、アンヘル・エステバン、ステファニー・パニチェリ『絆と権力 ガルシア=マルケスとカストロ』(新潮社、2010)、エドムンド・デスノエス『低開発の記憶』(白水社、2011)、ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』(白水社、2015)、『チリ夜想曲』(白水社、2017)、セルバンテス「ドン・キホーテ」(抄訳)他(編訳〈ポケットマスターピース13 セルバンテス〉集英社文庫ヘリテージシリーズ、2016)、ガルシア=マルケス、バルガス=リョサ他『20世紀ラテンアメリカ短篇選』(編訳、岩波文庫、2019)等。
【共訳書】グスターボ・アドルフォ・ベッケル『スペイン伝奇作品集』(創土社、1977)、「緑の瞳」(共編訳『悪魔にもらった眼鏡』名古屋外国語大学出版会、2019)、ジョルジュ・シャルボニエ『ボルヘスとの対話』(国書刊行会、1978)、マリオ・バルガス=リョサ『子犬たち・ボスたち』(〈ラテンアメリカ文学叢書〉7、国書刊行会、1978)、『ラ・カテドラルでの対話』(〈ラテンアメリカの文学〉17、集英社、1984)、ホセ・ドノソ『隣の庭』(〈ラテンアメリカ文学選集〉15、現代企画室、1996)、カミロ・ホセ・セラ『サッカーと11の寓話』(朝日新聞社、1997)、アグスティン・サンチェス・ビダル『ブニュエル、ロルカ、ダリ』(白水社、1998)、マヌエル・リバス『蝶の舌』(角川書店、2001)、ガブリエル・ガルシア=マルケス『十二の遍歴の物語』(新潮社、2008)、ロベルト・ボラーニョ『2666』(白水社、2012)他。
熊倉靖子(Kumakura, Yasuko)
栃木県真岡市生まれ。清泉女子大学大学院修士課程修了。翻訳家。スペイン語圏における幻想文学分野を研究テーマとする。
【訳書】マヌエル・リバス『蝶の舌』(共訳、角川書店、2001)
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