オデッサの花嫁

エドガルド・コサリンスキイ 著
飯島みどり 訳

定価:本体3,000円+税
2021年12月15日書店発売

四六判丸背上製 かがり綴カバー装 272頁
ISBN978-4-900997-90-5
装幀:間村俊一
カバー写真:港千尋

地球が回りつづけねばならぬのなら未来は貴方がたが決めるのよ。

生きるためなら他人となるも厭わぬ、そんな人生の許された時代に大西洋を往還する者たちの運命。スーザン・ソンタグ絶賛のデビュー作『都会のヴードゥ』から16年、ブエノス・アイレスの映画作家が還暦からの新生を遂げた奇跡の短編集。オデッサ、リスボン、そしてブエノスアイレス──、世界の涯へ、20世紀の苦難を背負い欧州を逃れんとする人々を描く。ツヴァイクの憂愁を潜めた生の断片。

 

 

旅人が己れの人生において決定的だとみなしてもよかったこの場面あの瞬間[…]名指そうとするはしから散ってゆくそうした残骸のうちに、この世を去る誰かの肖像を拾い上げられると期待するなど無駄なことだろう。おそらくは砕け散ったばらばらの、使いものにならない水屑というそのありようこそ、難破船の残骸をたまさか覗き見るかもしれない見物人の注意を奪うのだろうか、いるかどうか定かではない見物人、その目に映るのは――ちぎられずたずたにされた物語の断片、ジグソーパズルの、もはや決して完成に至るはずなきパズルの、孤島のように離れ離れのピース、決して組み上がることのない欠片たち。(本文より)