鏡花文学の流域

松村友視 著

定価:本体4,200円+税
2022年10月27日書店発売

四六判丸背上製 カバー装 376頁
ISBN978-4-900997-97-4
装幀:間村俊一
カバー装画:小村雪岱

四十年を越える鏡花文学研究の成果を精選し、書き下ろし三本を加えた初の泉鏡花論集。紅葉の添削跡を辿って初期原稿の成立過程を明らかにする第一部から、鏡花世界における神話の位相、インド哲学との接点と影響関係、〈母なるもの〉のモチーフの内実を明らかにするとともに、ジェンダー論的観点も交えて被抑圧者の抵抗を見出す第二部、第三部は金沢・浅野川流域という特権的なトポスに作品の地勢図を越えた鏡花文学の認識風景の集約を見る『由縁の女』論で締めくくられる。
方法論的概念ともなった〈認識風景〉によるアプローチによって、思想史へも接続しつつ、鏡花=〈幻想文学〉というイメージを越えて、世界を超え出ようとする新たな鏡花像を提示。
作品に結ばれる世界像の論理と構造の根柢をなす〈認識風景〉への問い。鏡花の〈幻想〉に、同時代の認識体系を拒絶して、現実から解き放たれた〈非在〉の領域において自律する魂への希求を見出し、その批評性を掬い出す。精緻な読解に支えられた、鏡花世界の本源を探る未踏の鏡花論集。

言及される作品──
「白鬼女物語」「非戦闘員」「海城発電」「義血侠血」「瓔珞品」『風流線』「龍潭譚」「夜叉ケ池」「眉かくしの霊」「註文帳」「白鷺」「化鳥」「由縁の女」「蛇くひ」「冠弥左衛門」「貧民倶楽部」「星の歌舞伎」「陽炎座」「春昼」「婦系図」「雛がたり」「歌行燈」「鐘声夜半録」「清心庵」「照葉狂言」他。

鏡花の文学世界が奥深く抱え込んでいる同時代への違和のもつ批評性に本書の一端は焦点を結んでいる。「批評」の内実についても十分に明瞭とはいいがたいが、いまここの世界の意味を本源から問い返すまなざしがその根柢に横たわっているという印象は拭われることなくある。その意味で本書は鏡花世界の本源に分け入るための未成の試みの集成というのに近いが、終わりのない未成の堆積こそが鏡花を研究することの内実かもしれない、という思いも一方にはある。(「あとがき」より)