「贈与論」の思想─マルセル・モースと〈混ざりあい〉の倫理
森山工 著
定価：本体3,500円＋税
2022年11月21日書店発売
四六判上製 368頁
ISBN978-4-900997-98-1
装幀：間村俊一
カバー装画：パウル・クレー
モースの全体像と「贈与論」の核心部を明らかにする画期的論考
人類学・民族学の最重要文献「贈与論」をあらわしたモース。一方モースは筋金入りの社会主義者、消費協同組合運動にコミットし、そこに精力を傾けた社会活動家であった。複雑な「贈与論」テクストとモースの全体像をその行論から読み解き、極端を廃し、中庸をゆく〈混ざりあいの倫理〉にモース思想の核心を見出す、第一人者による画期的なマルセル・モース論。
本書は、マルセル・モースの「贈与論」というテクストを、外在的に、すなわちテクスト外的な間テクスト性との関連において読解するとともに、内在的に、すなわちテクスト内部の論点を把択する立場から読解する試みである。その結果として示されるのは、社会学や民族学というアカデミアの世界で思索を重ねることと、当時の社会的・政治的な諸々の状況・情勢と実践的に対峙することとが、モースという人のなかで有機的に統合されていたということである。アカデミアの人としてのモースと社会実践家としてのモースとが、まさしく「混ざりあって」いたということである。このような「贈与論」の読みは、おそらく日本においてはもとより、日本の外においても類例のない試みであろう。とくに、第二部の「混ざりあい」というモチーフに着眼点を絞り込む読解について、わたし自身は日本語によるものであれ欧語によるものであれ、類書を知らない。したがってわたしはこの着眼について、先例のないわたし独自のものであると考えている。この意味で本書は全体として、他に類のない「贈与論」読解を提示する試みである。（本文より）
序
第一部 外から読む「贈与論」
第一章 社会・モース・社会主義
一 「社会的な共和国」と「社会主義」
二 「社会問題」、「社会経済」、「社会的連帯」
三 世紀転換点のマルセル・モース
四 モースと社会主義的行動
第二章 モース、ボリシェヴィズムと対峙する
一 社会主義とボリシェヴィズム
二 経済の組織化とボリシェヴィズム
三 暴力・法・ボリシェヴィズム
四 市民・民主・社会
第三章 モース、暴力にあらがう
一 モースと「暴力論」
二 ソレルと『暴力論』
三 ボリシェヴィズム・ファシズム・暴力
四 暴力にあらがい、力を支持する
第四章 「贈与論」の間テクスト的構成
一 国民と民主主義
二 国民から社会へ
三 法と社会的実践
四 〈政治〉と技法
第二部 内から読む「贈与論」
第五章 贈与・交換・聖物
一 「贈与論」における〈譲りえぬもの〉
二 交換と「動かない財」
三 贈与・交換・聖物
四 家産としての聖物
第六章 物の霊
一 「生地」に帰りたがる物
二 物の霊
三 類感呪術という内在論
四 物それ自体の力
第七章 「贈与論」における〈混ざりあい〉
一 全体論における〈混ざりあい〉
二 行為と規範における〈混ざりあい〉
三 物と人格との〈混ざりあい〉
四 内在論の理論的陥穽
第八章 〈混ざりあい〉の倫理へ
一 西欧近代と〈混ざりあい〉
二 関係論者モース
三 未分化性から分化へ
四 分化から未分化性へ
結
あとがき
参照文献
索引
森山工（Takumi, Moriyama）
東京大学大学院総合文化研究科教授．文化人類学．
主著：『贈与と聖物─マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践』，『墓を生きる人々─マダガスカル、シハナカにおける社会的実践』（以上，東京大学出版会）他．
主訳書：マルセル・モース『贈与論他二篇』（岩波文庫），『国民論他二篇』（編訳。岩波文庫）他．