快楽の仏蘭西探偵小説
野崎六助 著
定価:本体4,200円+税
2022年11月27日書店発売
四六判丸背上製 かがり綴カバー装 668頁
ISBN978-4-900997-99-8
装幀:間村俊一
カバー写真:港千尋
バルザックからダンテック、ミュッソ、ルメートルへ、そしてあるいはロブ=グリエ、ビュトール、デュラスへ──。文学と探偵小説、並行しつつも分岐した歴史の深層を跨いで、フランス探偵小説の固有性と未知の快楽を発見する。バルザックにあった[始原の探偵小説]に探偵vs密偵の対決の構図を見出して、社会の暗黒をも照らすその独自の原型を捉え、現在に到る系譜を追跡。また作品構造と叙述コードの分析を踏まえ、謎解きに終わらないフランス探偵小説の独自性、英米探偵小説との差異を抽出。通時性と原理論を併せもち、初めてフランス探偵小説の特質とその真の姿を捉えた書き下ろし1800枚! 言及される作家約500人、作品約750作。全編書下し3500枚・1232頁の『北米探偵小説論21』から二年、その別巻を構成する。フランス探偵小説ベスト33、フランス探偵映画ベスト33付。
フランス探偵小説は、[始原の探偵小説]と[純粋探偵小説]のはざまに揺れ動いてきた。その振幅の激しさにおうじて、不可思議な蠱惑をふりまいた。媚態の数かずは、個別の作品の完成体をとおしてではなく、フランス探偵小説という漠然とした群体の記憶を遺すにとどまっている。[…]フランス探偵小説を一つの特殊な[密室]になぞらえるとすれば、バルザックは、万能の解錠キーを提供する。[…]バルザックを解き放たないかぎり、晦冥から脱する途はない。そして、バルザックは表の正面扉のキーであり、裏扉のキーは別にある─。いっそう奥深く謎めいた裏キー、快楽のフランス探偵小説にこそふさわしい秘蹟は、マルセル・エイメのうちに見つけられる。[始原の探偵小説]と[純粋探偵小説]の絡みあう奇妙な光景が、そこにある。(本文より)
【本書の書評、紹介、インタビュー】(抜粋)
●若島正氏「著者の凄さは、気が遠くなるような数の作品群をすべて自分の目で読んで確かめているところにある。「形式への懐疑、破壊意志などといった契機を、たとえ一欠片にしろ含まない探偵小説は、凡庸になるしかない」という著者の言葉は、過去の通説をなぞるだけの探偵小説論は凡庸になるしかないという決意として読みかえることも可能だ。…『北米探偵小説論』では海外探偵小説のベストテンに選ばれていた、ロブ=グリエのアンチ・ロマン『消しゴム』を論じるにあたって、バルザックの『暗黒事件』の影をそこに読み取るくだりは、本書の白眉と言っていい。それは、始原に遡りながら、新しい展望を見据えた、この著者にしかできない創造的な探偵小説批評なのだ。」(毎日新聞、2023年4月1日)
●嵩平何氏「一読して度肝を抜かれる本がある。フランス探偵小説に深い洞察を加えた野崎六助『快楽の仏蘭西探偵小説』は、前著『北米探偵小説論21』で示した壮大すぎる構想と果敢な模索の成果が、まだ道半ばだったと教えてくれた。…特筆すべきは北米探偵小説論などで長きにわたって試みられ本書でも引き継がれた、地域や時代を越えて共鳴しあう精神性などにも目を向け、一般に探偵小説とみなされない重要作品群の意義を問うている点であろう。…きっとフランス探偵小説という光源を通じて照射されているのは世界ミステリそのものなのだろう。」(ミステリマガジン、2023年3月号〈ミステリ・サイドウェイ〉)
0 序論
0・1 快楽の仏蘭西探偵小説
0・2 探偵小説7つのコード
0・3 探偵小説2つのベース
0・4 『オイディプス王』と『アンティゴネー』
0・5 『黄色い部屋の謎』と『その女アレックス』
0・6 謎解き紳士とモラリスト探偵
0・7 本巻から別巻への案内
I 始原の探偵小説
Ⅰ・0 バルザック探偵小説
Ⅰ・1 マルチチュードの予感
Ⅰ・2 密偵たちの挽歌
Ⅰ・3 密偵vs怪盗探偵の暗黒
Ⅰ・4 死刑執行人と探偵小説
I・5 もう一つの始原 江戸探偵小説概観
I・6 二〇世紀の恐怖時代
I・7 ヴィドックの末裔たち
II 始原の第二幕 英仏海峡波高し
II・1 ガボリオから涙香へ
II・2 ヴェルヌ 青春の帝国主義
II・3 二〇世紀少年ルパン
II・4 誰が駒鳥を生き返らせるか?
II・5 探偵小説なのか・フランス探偵小説なのか
II・6 贋ジッド列伝
II・7 フランス探偵小説? それともベルギー探偵小説?
II・8 スパイ小説という名の[問題]小説
III 絶対密室のほうへ
III・0 不可能犯罪とは一つの詩である
III・1 バルザックの赤い密室
III・2 エルキュール城の密室
III・3 神出鬼没のアポリネール
III・4 ピランデッロを探す六人の探索者
III・5 カミと探偵小説の空洞
III・6 超現実主義とプロパガンダ
III・7 シムノンの13・その他
III・8 マルセル・エイメの時間割
III・9 クノーの演習
III・10 ファントムの密室
III・11 密室少年アルテ
IV 白耳義探偵小説のパサージュ
IV・1 パサージュの向こう側
IV・2 暗闇路地のジャン・レイ
IV・3 リエージュに消える男
V 純粋探偵小説を求めて
V・1 誰彼のロマン・ポリシェ
V・2 亡命者シムノン
V・3 昼下がりのビリヤード・サスペンス
V・4 真夜中のシム・ロマン
V・5 真夜中のネオ・ポラール
V・6 アンチ・ロマンという名の問題小説
VI
VI・1 フランス探偵小説ベスト33
VI・C フランス探偵映画ベスト33
∞ 後記 一〇一年のモンタージュ
書名・作品名索引
人名索引
著者
野崎六助(Nozaki, Rokusuke)
文芸評論家、小説家。
主な著作。『北米探偵小説論』(第45回日本推理作家協会賞 評論その他の部門)青豹書房・のち双葉文庫、『増補版 北米探偵小説論』インスクリプト、『北米探偵小説論21』インスクリプト、『アメリカン・ミステリの時代』NHKブックス、『日本探偵小説論』水声社、『李珍宇ノオト』三一書房、『復員文学論』インパクト出版会、『夕焼け探偵帖』講談社、『煉獄回廊』新潮社、『安吾探偵控』東京創元社他多数。
●若島正氏「著者の凄さは、気が遠くなるような数の作品群をすべて自分の目で読んで確かめているところにある。「形式への懐疑、破壊意志などといった契機を、たとえ一欠片にしろ含まない探偵小説は、凡庸になるしかない」という著者の言葉は、過去の通説をなぞるだけの探偵小説論は凡庸になるしかないという決意として読みかえることも可能だ。…『北米探偵小説論』では海外探偵小説のベストテンに選ばれていた、ロブ=グリエのアンチ・ロマン『消しゴム』を論じるにあたって、バルザックの『暗黒事件』の影をそこに読み取るくだりは、本書の白眉と言っていい。それは、始原に遡りながら、新しい展望を見据えた、この著者にしかできない創造的な探偵小説批評なのだ。」(毎日新聞、2023年4月1日)
●嵩平何氏「一読して度肝を抜かれる本がある。フランス探偵小説に深い洞察を加えた野崎六助『快楽の仏蘭西探偵小説』は、前著『北米探偵小説論21』で示した壮大すぎる構想と果敢な模索の成果が、まだ道半ばだったと教えてくれた。…特筆すべきは北米探偵小説論などで長きにわたって試みられ本書でも引き継がれた、地域や時代を越えて共鳴しあう精神性などにも目を向け、一般に探偵小説とみなされない重要作品群の意義を問うている点であろう。…きっとフランス探偵小説という光源を通じて照射されているのは世界ミステリそのものなのだろう。」(ミステリマガジン、2023年3月号〈ミステリ・サイドウェイ〉)
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