サマータイム、青年時代、少年時代

──辺境からの三つの〈自伝〉

J・M・クッツェー 著
くぼたのぞみ 訳

定価:本体4,000円+税
2014年6月25日書店発売

四六判上製 カバー装 684頁
ISBN978-4-900997-42-4
装幀:間村俊一

三度目のブッカー賞候補作「サマータイム」に「青年時代」「少年時代」を併せたノーベル賞作家クッツェーの自伝的小説三部作を渾身の訳で贈る。著者自身が全面改稿して合本としたScenes from Provincial Lifeを完訳。
 
「自伝はすべてストーリーテリングであり、書くということはすべて自伝である」(クッツェー)。鋭い批評意識、複雑かつ精緻な方法論でコントロールされた「他者による自伝」(autrebiography)──自伝への批評を併せもつ自伝/反自伝であるこの三部作は、事実と虚構を巧みに織り交ぜながら深々とした生のドラマを浮かび上がらせ、クッツェーの文学を読む醍醐味を存分に味わわせる。とりわけ三度目のブッカー賞候補作「サマータイム」は、群を抜く強度・完成度によって、ノーベル賞作家の名に恥じないクッツェーの代表作の一つとなった。「少年時代」のみ、みすず書房版を改訳。他二作は初訳。
 
この三部作はクッツェーという人間の生い立ち、家族関係、自己形成期、作家J・M・クッツェーが誕生した歴史的背景の舞台裏をみずから伝える作品であり、そこにはフィクション化された「他者による自伝」という形式によって初めて描くことができると作家が考える真実が詰まっている。クッツェー作品は無批判に登場人物とその行動に自分を重ね、共感してストーリーを読み、消費することをなかなか許さない。明晰かつ簡潔な強いことばで一気に読ませながら、読者の側に知らず知らず自省へ誘う契機を手渡すからだ。手渡された側には、歴史や土地をめぐるみずからの立ち位置を見直す沈黙が醸し出されていく。そんな批評空間へのきっかけを文章内に埋め込む作家、それがクッツェーだ。「クッツェーを読むこと」は、水面は穏やかだが水中には激烈な暗流が潜む海を泳ぐようなもの、と言われるのはそのためかもしれない。 (「訳者解説」より)