夢の歌から

津島佑子 著

定価:本体2,700円+税
2016年4月22日書店発売

四六判上製カバー装 352頁
ISBN978-4-900997-62-2
装幀:間村俊一
装画:山福朱実

思いがけなくも先立った大作家が、
3・11以後の世界への、怒りと希望をたゆまず語り続けた、
最後のエッセイ集。

地上の悲惨を超えて、ひびきつづける「夢の歌」──。
3・11後の原発と政治情勢をめぐって、ざわめき立つ怒りを記した全エッセイを収録。まばゆく光溢れる世界を願った小説家が、わたしたちに手渡した課題とは。生と死について、家系をめぐって、惹かれ続けた場所、親しんだ物語について綴る晩年の随筆を併せた、30篇、550枚のエッセイ集成。身近に最後を見守った津島香以氏のあとがきを添えて刊行。

今の日本で小説を書く人間のひとりとして、私はこうしたさまざまな場所、時間から響いてくる声をもっともっと聞き届けたい、と願っている。それはいくらでもある。今までの私が気がつかなかっただけ。その声を受けとめながら、今後もつづくと言われる大きな地震とまわりに浮遊する放射性物質におびえつつ、自分の小説を書く。悲しみを呑みこんでがれきのなかを歩きまわり、運良く自分に必要なものが見つからないかと丹念に執念深く探すひとたちのように、こつこつと私は自分の小説を書きつづける。思うように書けないかもしれないけれど、少なくとも書こうとする。そこから、なにが見つかるのだろう。それを私は「希望」と呼んでもいいのだろうか。(本文より)