近代文学の認識風景

松村友視 著

定価:本体5,000円+税
2017年1月6日発売

四六判上製カバー装 400頁
ISBN978-4-900997-66-0
装幀:間村俊一
写真:港千尋

現代文学から欠落した思想文学のありようを救出し、文学の根底を問う!

鴎外手沢本を精査し、カント、シェリングら近代西洋哲学との思想的格闘を跡づける画期的論考、透谷のエマーソン受容を丹念に描き出す論考他、鏡花、嵯峨の屋、花袋、湖処子、独歩、柳田、賢治に至る思想文学が描き出した、世界の見え方=認識風景を一貫して問うことによって、時代の認識のリミットを越える文学の力を救い出し、比較文学的視点をまじえて、日本近代文学の読解と研究に新視野を拓く。

風景が客観的な実在ではなく認識によって生成・創出されるものであることは言を俟たないが、認識自体が環境や歴史や同時代の知の枠組みに依存していることを考えれば、風景もまた、これらの普遍的な枠取りを強く帯びている。
[…]
本書の立論の対象は基本的に明治後半期を中心とする。それは、この時期において認識風景への問いが他のどの時期にもまして深い視座からとらえ返され、論じられたからである。文学的表現の成立期にあって、ドイツ観念論を始めとする認識論の体系や芸術理論が集約的に導入参照され、文学の描くべき風景と、その根源としてのまなざしの意味が真摯に模索された時期にそれは重なる。
しかし、本書の意図は、明治期文学における認識風景の成立・変遷の様相を跡づけることにだけあるわけではない。むしろ、理論の季節といってよいこの時期の真摯な議論や模索の中に、いまここにある我々の認識のありようを根底から問い直す契機が先鋭的な形で現れていることにこそ、本書の関心は最終的な焦点を結んでいる。(あとがきより)