嘘つきジュネ

タハール・ベン・ジェルーン 著
岑村傑 訳

定価:本体2,800円+税
2018年1月17日書店発売

四六判上製 286頁
ISBN978-4-900997-69-1
装幀:間村俊一
写真:港千尋

不意にかかってきたジュネからの電話。1974年5月5日午前、フェズに生まれたモロッコの新進作家、タハール・ベン・ジェルーンはジュネに呼びだされ、以降最晩年のジュネと、無比の関係を続けることになる。フランス人の人種主義、フランスの植民地主義を徹底して告発し、パレスチナに寄り添うジュネ。サルトル、フーコー、バルト、デリダ、ジャコメッティ、アブデルケビル・ハティビ、ゴイティソーロ、ボウルズ、……そしてアブドッラー、ジャッキー、ムハンマド・エル・カタラーニー、ライラ・シャヒード。幾多の人物像を点綴しながら描かれる、ジュネ最晩年の時間。

本書は、『恋する虜』を書き継ぐジュネの最晩年を間近にまた距離を置いて併走した、ゴンクール賞作家・ゴンクール賞選考委員TBJによる、味わい深い回想録であり、エドマンド・ホワイト『ジュネ伝』を補完する貴重な証言を含むドキュメントであり、憤り、挑発し、消沈し、沈黙するジュネの声、「白く光り輝く」ジュネの声が全篇から立ちのぼる、出色の文学作品である。1979年11月11日付『ル・モンド』掲載のジュネとベン・ジェルーンの対話の既出削除版(『公然たる敵』所収)の完全版初収録。

わたしたちは、わたしがほかの友人関係ではけして知ることのない仕方で結びついていた。ジュネはおのずから特別な存在だった。わたしの賛美は控え目で、ときに揺らいだ。[…]彼はフランスにおける最後の「参加する」(アンガジェ)知識人だったのだろう。今日のフランスを見わたすとき、そのような人物は姿を消してしまっている。この国にはひとりのジュネが、ひとりのフーコーが、ひとりのクロード・モーリヤックが、義憤をたぎらせることを知り、その怒りを爆発させる場所を選ぶことをしない人間たちが、欠けている。サルトルは参加する人間で、そのために尊敬され、またいくつかの過ちを犯して槍玉にあげられた。ジュネは「アジテーター」であり、メディアが耳を塞いでいるときでも自分の伝えたいことを伝える才能をもつ役者だった。彼には失うものは何もなかった。[…]わたしが彼のそばで学んだのは、社会は斜めの角度から見なければならず、正面からじかに向きあうことも、同じ方向を向くようなことも禁物だということだった。バルトが「迂回」と呼ぶものを、ジュネはむしろ「対角線」と呼んでいる。世界を斜めに走る対角線だ。[…]その教えはわたしの力となったし、いまもまだ力を与えてくれている。(本文より)