津島佑子 光と水は地を覆えり
川村湊 著
定価:本体2,600円+税
2018年1月25日書店発売
四六判上製 264頁
ISBN978-4-900997-70-7
装幀:間村俊一
写真:白井伸洋(朝日新聞フォトアーカイブ)
津島佑子氏が亡くなって早くも二年近くになる。2017年には大規模な文学展、小説コレクションの刊行など、その文学世界を顧みる動きが活発であり、津島佑子が日本近現代文学史に占める地位は今後ますます大きくゆるぎないものとなるだろう。本書は、作家を最もよく知る著者による、津島佑子の文学世界への最良の案内であり、初のまとまった津島佑子論である。
『ジャッカドフニ』、『黄金の夢の歌』、『ヤマネコドーム』、『あまりに野蛮な』、『笑いオオカミ』、『狩りの時代』……後期の作品を中心に、『火の山 山猿記』、『光の領分』、『夜の光に追われて』、『火の河のほとりで』ほか主要作を網羅して作品世界を案内する批評的ガイドであり、思い出を語りつつ作家の実像を浮かび上がらせる、自在な評論である。津島作品をこれから読もうとする読者、その文学世界の全貌を知りたいと思う読者にとって格好の案内となるものである。
とりわけ3.11以降、津島佑子が半ば強いられつつ赴いた文学の戦場、そこでの闘いと大きな成果を、作品に即して明らかにする出色の評論である。
世界は、元のままとちっとも変わっていない。風はそよぎ、水は輝き、野にも、森にも緑が広がっている。牛も、犬も、猫も、人も、のんびりとした春の光のなかでまどろんでいる。そこには、光と水が地を覆った「過去」のできごとの痕跡は微塵もない。しかし、その時以来、私たちは、光も水も、それらが「神」でもなく、救いでもなく、むしろ「死」そのものであることを知ったのだ。日常の、平穏な、瀰漫する「光」との戦いが、文学の主題とならざるをえなくなったのである。まさに、「あのこと」があってから。(本文より)
この本は、津島佑子さんが遺してくれた作品を、私がこんなふうに読んだ、という証明のようなつもりで書いた。もちろん、一番最初の読者は津島さんだ。「えっ、こんなふうに読んだの?」と言われそうな気が始終していた。津島さんが亡くなってから、新たに書いたものと、それ以前に書いたものとを区別なく、いっしょにまとめることにした。このため、私が津島佑子について書いたほぼすべての文章をまとめることになった。[…]私のなかの津島佑子は、まだ亡くなっていない。彼女の作品が読まれ、それが読者の心を打つ間は、ことふりた言い方だが、津島佑子は私の心の宇宙のなかで生きている。(「あとがき」より)
I 光との戦い フクシマから遠く離れて
II オオカミの記憶
III 津島佑子の「大切」なもの 『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』
IV 野蛮の思考 『あまりに野蛮な』
V 差別と『狩りの時代』
VI 言葉という羽根
VII 富士には月見草がよく似合う 『富嶽百景』、『火の山 山猿記』
VIII 光・音・夢 『光の領分』
IX 「物語」の光 『夜の光に追われて』
X 水の光 『水府』
XI 〈地霊〉と〈うわさ〉 『火の河のほとりで』
XII 「きけん」という階段のある家 『夢の記録』
XIII 母語と外国語 『かがやく水の時代』
XIV 変幻する「私」 『「私」』
XV マイノリティー文学のために 『アニの夢 私のイノチ』
XVI 狐の仔、油揚げを喰ひたる事 追悼のために
対談 なぜ、小説か 津島佑子・川村湊
註
あとがき
初出一覧
川村湊(Kawamura, Minato)
1951年2月、網走市に生まれる。文芸評論家。1981年「異様なるものをめぐって─徒然草論」で群像新人文学賞(評論部門)優秀作受賞。1993年から2009年まで、17年間にわたり毎日新聞で文芸時評を担当。木山捷平文学賞はじめ多くの文学賞の選考委員を務める。2017年まで法政大学教授。
著書に、『異様の領域』(国文社、1983年)、『批評という物語』(国文社、1985年)、『〈酔いどれ船〉の青春』(講談社、1985年。のちにインパクト出版会より復刊)、『音は幻』(国文社、1987年)、『アジアという鏡』(思潮社、1989年)、『異郷の昭和文学』(岩波新書、1990年)、『言霊と他界』(講談社、1990年。のちに講談社学術文庫)、『近世狂言綺語列伝』(福武書店、1991年)、『マザー・アジアの旅人』(人文書院、1992年)、『南洋・樺太の日本文学』(筑摩書房、1994年。平林たい子文学賞受賞)、『海を渡った日本語』(青土社、1994年)、『「大東亜民俗学」の虚実』(講談社、1996年)、『満洲崩壊』(文藝春秋、1997年)、『戦後批評論』(講談社、1998年)、『妓生』(作品社、2001年)、『補陀落』(作品社、2004年。伊藤整文学賞受賞)、『牛頭天王と蘇民将来伝説 』(作品社、2007年。読売文学賞受賞)、『温泉文学論』(新潮新書、2008年)、『文芸時評1993─2007』(水声社、2008年)、『狼疾正伝』(河出書房新社、2009年)、『異端の匣』(河出書房新社、2011年)、『福島原発人災記』(現代書館、2011年)、『紙の砦』(インパクト出版会、2015年)、『戦争の谺』(白水社、2015年)他多数。
『川村湊自撰集』全五巻(作品社、2015─16)
第1巻 古典・近世文学編 第2巻 近代文学編 第3巻 現代文学編 第4巻アジア・植民地文学編 第5巻 民俗・信仰・紀行編
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