蒸気で動く家

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションIV  第二回配本

ジュール・ヴェルヌ 著
荒原邦博・ 三枝大修 訳

定価:本体5,200円+税
2017年8月21日書店発売

A5判丸背上製 かがり綴カバー装 本文9ポ二段組 512頁
挿画:107葉
ISBN978-4-900997-71-4
装幀:間村俊一
カバー装画:堀江栞
挿画:レオン・ブネット

北インドの大自然を舞台に繰り広げられる冒険と復讐の物語。セポイの叛乱で捕虜を虐殺し合い、あまつさえ、互いの伴侶を殺害した、イギリス陸軍士官エドワード・マンローと叛乱軍の首領ナーナー・サーヒブ。叛乱鎮圧後、憂鬱に沈むマンローを励まそうと、友人たちは鋼鉄の象が牽引する豪華客車を用意、インド横断の旅に出る。闇の中を蠢く叛乱軍の残党たち、正気を失い、松明を持って密林をさまよう謎の女性「さまよえる炎」……。血の糸で引き合う宿敵同士の運命やいかに。「ヴェルヌの最も不思議な魅力を湛えた小説」(ジュリアン・グラック)であり、インドを横断する『八十日間世界一周』と表裏をなし、『八十日間』を逆向きに反復しかつ更新する傑作、130年の時を経てついにその全体像が姿を現す。本邦初完訳。

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションの第二回配本である本書は、『蒸気で動く家 北インド横断の旅』(Jules Verne, La Maison à vapeur. Voyage à travers l’Inde septentrionale, Paris, Hetzel, 1880)の全訳を収録した。本作品の翻訳は、明治期の森田思軒による第一部のみの抄訳(英語からの重訳)以来、長らく実現の機会を持たずにいたことから、本書が日本語による初めての完訳となる。
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現代のわれわれが『蒸気で動く家』に関心を向けるのは、ヴェルヌの小説連作の論理それ自体に由来する。彼が書いていたのはなるほど、子供がヒーローの活躍に手に汗握り、「気球」や「ネモ」といった目覚ましいアイデアに心躍らせる物語であった。そのようにして『気球に乗って五週間』、『地底旅行』、『海底二万里』、『八十日間世界一周』などから、青少年向けのSF冒険小説作家ヴェルヌというイメージが形作られ、消費されてきたのだった。しかし、ヴェルヌは明白にこうした紋切り型から逸脱する問題作をいくつも〈驚異の旅〉の中に組み込んでおり、それらは決して上記のような有名作品に比べて失敗作だったというわけではない。たしかに小説としてはより複雑で奇妙な形態を示しているがゆえに、あまり理解されることなく取り残されてきたのだが、実際は、今日の大人の読者にとっても決定的に新しい何かを含んだ、不思議な魅力を湛えた作品なのである。そして、そのような小説の代表として、〈驚異の旅〉第二一番目の作品『蒸気で動く家』は、我々の前で読まれるべき時が訪れるのを秘かに待っていたのだった。(「訳者あとがき」より)