実況・比較西洋建築史講義

中谷礼仁 著

定価:本体2,200円+税
2020年10月30日書店発売

A5判並製 208頁
ISBN978-4-900997-83-7
ブックデザイン:井川祥子

“比較”であぶり出す建築史の実験

版を重ねた『実況・近代建築史講義』の姉妹篇。本書では古代ギリシアからルネサンスの始まりまでを扱う。聴けば建築史が好きになる早稲田大学の人気講義をまるごと収録。「歴史とは、少なくとも二つ以上の事象の間に発生する想像的な時空のことである」。複数の建築物・事象を比較によって類推し、なぜそのように構築されたのかを、歴史的背景とともに、実況形式でわかりやすく解説。代表的な建築物と当時の時代精神、新たな構法が導入され課題が克服されてゆく変遷の様子が、多数の図版と併せ、歴史の動力と関係づけて理解できる、面白さ抜群の中谷建築史第二弾。付録地図付。

 古代ギリシア・ローマ建築が、千年以上も過ぎたフィレンツェでそのまま復活するというのは、時間の不可逆性から考えても当然不可能です。ですから、古代建築が再生したとすれば、その「古代建築」は時間の不可逆性を飛び越えていないといけません。つまり、ルネサンスが再生させた「古代建築」とは、すでに無時間的な状態、いわば「抽象的形式」=「かた」に変化を余儀なくされているのです。さらにこの気づきを発展させていくと、歴史学も過去そのものを再生することが不可能であることに気がつきます。その気づきが、私が最初の講義で申し上げた、 「歴史とは、少なくとも2つ以上の事象の間に発生する想像的な時空のことである」という主張に行き着きます。
 このような意味で、私たちのもつ過去のイメージは、歴史的でありながらすでに過去自体を抜け出して無時間的な状態に突入しています。ブルネレスキが援用した古代ローマとは、まさにそういう想像的なものであったはずです。(本文より)