現代色彩論講義──本当の色を求めて
港千尋 著
発行:MEI
発売:インスクリプト
定価:本体1,800円+税
2021年8月4日書店発売
四六変型判並製 256頁
ISBN978-4-900997-91-2
装幀:永原康史
写真:港千尋
色彩世界への新たなガイドブック
自然の色とスマホの色、そしてプリントされた色、微妙に異なる色調のいったいどれがいいのか悩むとき、現代人は無意識のうちに「本当の色」が気になっている。感情を動かし、音や味にも影響しながら好感度をあげるのは、「本当の色」だろうか、それとも「映える」色だろうか。色の文化人類学から美術、建築、都市計画そして文学や音楽まで、分野を横断するダイナミックな旅をとおして、読者をはるかな虹の地平へと誘う。パンデミックに揺れる時代に、「より良い生活」とは何かを想うすべての人へ向けた、新しい色彩論の登場である。
洞窟壁画に残された最古の絵の具、色を塗り替えてしまった島、民藝が発見した手作りの色、軍事の島から生まれたグレーの探究、史上最も黒いペイント…豊富なエピソードで語られる色の歴史は、現代から四万年に遡る。エチオピアの赤、モロッコの水色、EU離脱に揺れるイングランドの補色、さらにオーストラリアの虹のビーチまで、大陸をまたいで色彩世界を俯瞰するという、時間的にも空間的にもかつてないスケールで紹介される驚きのエピソードは、色の文化がもつ奥深さと面白さを伝えている。バーナード・リーチ、ジャン・ボードリヤール、クロード・レヴィ=ストロース、ジョン・ケージ、ジャック・アタリ、ジャレド・ダイアモンド、吉岡幸雄、保刈実など、幅広い領域から紹介される思想は、今日のアートにとってもデザインにとっても、新鮮なインスピレーションを与えるに違いない。
豊かな色彩に溢れる現代生活。わたしたちの身の回りには自然の色、都市の色、日用品の色に加えて、大小さまざまな画面が表示する色があり、8Kテレビやスマホでさえいまや10億色の再現力をもつという。人間はかつて経験したことのなかったような、大色彩文明を実現しようとしているが、そのような豊かな色彩を、わたしたちはどれだけ理解しているだろうか。本書は世界各地を撮影してきた著者が、人間が色をどのように使い、物質と精神をともに豊かにしてきたのか、さまざまな具体例とともに解き明かす色彩世界へのガイドブック。
はじめに
第一章──色のはじまり
色の発生/六〇年代カウンターカルチャーから/色による歴史/自分の色/ゴブラン織り
第二章──自然の絵の具
虹の浜辺から/オーカーが生まれる場所/洞窟へ/手形の謎
第三章──記号としての色彩
ボードリヤールの色彩論/流行色について/ブルーの街/ブルーマーブル
第四章──破片に映る歴史
より良い生活とは/セント・アイヴスへ/破片からの創造/ローカルの価値
第五章──退色の美
紅葉のメカニズム/退色とノスタルジー/マリンブルーについて/ジーンズの色/エイジングの美学
第六章──TOM MAXとグレーの探究
TOM MAXとは誰か/色のデザイン/迷彩という色/グレーの探究/コンクリート/新しいジャズと画面
第七章──色の社会
芸術祭と色彩/ブレグジットと街の色/色彩と景観/フランスの色/色は社会的である
第八章──パブリック・パレット
東海道の車窓から/景観と表現/景観と法律/歴史の色彩/景観色彩と履歴
第九章──言葉の色
白と白/マンセルの表色系について/色の名前/アメリカンカラーとホワイトハウス/色彩のコンセルヴァトワール/フランスの色景
第十章──虹の音楽
音色とトーン/共感覚の世界/かさねのテクニック
第十一章──雑音の創造性
ノイズの風景/ノイズ音楽の誕生/ノワーズの風景
第十二章──本当の色
ダークマターをめぐって/黒さとは/色の浜辺から
注
参考書
港千尋(Chihiro MINATO)
写真家。イメージの発生と記憶などをテーマに制作、著述、キュレーションと広範な活動をつづけている。ヴェネチア・ビエンナーレ日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2016芸術監督などを歴任。写真集に『掌の縄文』(羽鳥書店)『文字の母たち』(インスクリプト)、著書に『芸術回帰論』(平凡社新書)『革命のつくり方』(インスクリプト)など多数。『風景論─変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社)で2019年度日本写真協会賞受賞。現在多摩美術大学情報デザイン学科教授。本書は同大学で2020年に開講された現代色彩論講義を元に編集された。
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