斜線の旅

管啓次郎 著

定価:本体2,400円+税
2010年1月1日書店発売

四六判上製 272頁
ISBN978-4-900997-28-8
装幀:間村俊一
写真:港千尋

水半球に横たわる「見えない大陸」(ル・クレジオ)、ポリネシア。フィジー、トンガ、クック諸島、タヒチ、そしてラパ・ヌイ(イースター島)へ。アオテアロア=ニュージーランドを拠点に、太平洋の大三角形の頂点を踏みしめ、旅について、旅の記述について、行くことと留まることについて、こぼれ落ちる時間のなかから思考をすくいあげる生のクロニクル。第62回読売文学賞(随筆・紀行賞)受賞!

ぼくの旅は徹底的に観念的なものであり、それが弱みであり、強みでもある。観念的であるがゆえに楽しめない性格のつけは、すでに十分に支払ってきた。だが一方で、そもそも観念的な行程を脳裏に描かなければけっして行かない場所に行ったりもする。ポリネシアは三角形なんだって? だったらそれぞれの頂点には行かざるをえないね。これは愚行だ、否定できない。地図を見たり、どこかで見かけた一枚の写真にとりつかれたり、何かの文章の一節が妙に気にかかったりして、無根拠に出発する愚者の一部族。ぼくはそのひとりだった。[本書より]