詩集 犬探し╱犬のパピルス

管啓次郎 著

定価:本体2,000円+税
2019年9月24日書店発売

四六判変型 224頁
ISBN978-4-900997-64-6
表紙・カバーAD:松田洋一
装画:小池桂一

発行:Tombac
発売:インスクリプト

待望の最新詩集!
世界的に注目を集める詩人の、比類なき言葉の宇宙。

『Agend’Ars』4部作から英語詩集 Transit Bluesへとつづいてきた、著者の圧倒的な詩空間の最新の断面。いちど読んだら忘れられない、犬と人の関係を主題にした2篇、「犬探し」に始まり「犬のパピルス」に終わる新詩集は、主として2017年の『数と夕方』以降の作品を収録している。「犬がいなくなった/夕方の中を名前を呼びながら歩いた」平易な言語が日本語世界に比類のない広がりと深みを生む、現在、世界的に注目を集めている詩人の、夢のような精神の原景。ウェブマガジン「水牛のように」他さまざまな媒体に発表された作品群だが、著者が多用する形式である16行詩のほか、キリスト教文明批判がこめられた「コルコヴァード」など、異様な強度をたたえたいくつかの長詩は必読だろう。アントナン・アルトーからエドゥアール・グリッサン、J. M. G. ルクレジオらの翻訳者としての思索のエッセンスの結晶。『野生哲学』の共著者である小池桂一により新たに描かれた装画2点もすばらしい。

夏の終わりにあたって、『数と夕方』(左右社、二〇一七年)に収めたもの以降の作品、多くは二〇一六年よりも後に書いたいろんな形式の詩を核として一巻を編むことにした。犬に始まり、犬に終わる。頼まれようが頼まれまいが世界のどこでも道行く人についてくるこの動物に守られて、ぼくもぼく自身の犬的遍歴を重ねることになった。今年二月に訪れたキューバでは、サンテリア(ヨルバ系混淆宗教)のオリチャ(神)のひとりとされる聖ラザロ=ババルアエを描いた絵画や彫像に出会った。彼は天然痘をはじめとする伝染病の荒ぶる神だが、いつも犬を連れている。それも二匹が、歩く彼の左右にいつも連れそっている。この粗暴で物悲しい世界をわたる者のcompanion speciesとしての犬の、無条件の愛、無償の努力。そのようにつねにそこにいる、どこにでもついてくる、犬のような詩をめざしたらどうだろう。この詩集自体がそんなポータブルな吠えない犬の役割を、あなたのために果たすことを願っています。(「あとがき」より)