みすず書房年始恒例の『読書アンケート 2024』(2025年2月刊)にて、小社刊行の書籍が以下のとおり取り上げられました(順序は掲載順)。

▼濱口竜介『他なる映画と』全2巻、2024年

他なる映画と 1・2

長谷正人(映像文化論)

《(…)映画という「他なる」ものの求めに自分を差し出すような過酷な労働経験として見直そうという実践記録。まるで濱口自身がその場で演出しているかのような濃密な批評は、私たち読者にも過去の名作を身体的に鑑賞し直すことを強いてくる。》

三浦哲哉(映画研究・評論)

《(…)「寄せては返すヌーヴェル・ヴァーグ」がいまもう一つ寄せている。波の最大の起爆剤は濱口竜介だ。真に画期的な書物『他なる映画と』の影響は、おそらく五年、一〇年単位でつづくだろう(これを読んで映像作家になる者がいるだろう)。》

早川由真(映画研究)

《二〇二四年の映画関連本でこれは外せない。(…)画面や音の具体的な細部に着目し、その魅力や意義を言語化するという映画批評の醍醐味を存分に味わえるが、それだけではない。からだの微細な震えにまで着目し、そこからカメラと被写体との関係性について掘り下げていく繊細な手つきは、一貫して「人間を撮る」という行為について考え続けてきた映画作家・濱口竜介にしかできない至芸であろう。地に足がついた批評で唸らされた。》

斎藤環(精神病理学)

《本書を読んで驚かされるのは、濱口の技法の多くが、対話実践と共鳴していることだ。(…)対話実践においても偶然は重視されるが、そのための「準備」や「修練」のあり方を考える上で、大いに参考になった。》

堀潤之(映画研究)

《徹底して「他なるもの」としての映画に向き合う濱口竜介の倫理と明晰な論理に打たれた。何度も観てわかった気になっていた数々の映画(…)に見落としていた箇所がたくさんあることに気付かされ、目から鱗が落ちると同時に、優れた映画の豊かさを再確認した。》

▼エドゥアール・グリッサン『カリブ海序説』星埜守之・塚本昌則・中村隆之訳、2024年

カリブ海序説

澤田直(哲学)

《七六〇頁超の大作だが、量はもちろんだが、内容が多岐にわたり錯綜した本書の訳は快挙だ。》《今回練達の訳者たちによる明快な邦訳を読み、文字通り蒙を啓かれた気がした。本書には、思想があり、考察があり、詩があり、絶望があり、希望がある。ここに書かれていることは過去のことではなく、未来のことだ。》

野谷文昭(ラテンアメリカ文学)

《グリッサンの「最大にして最重要の書」である。読み通すには相当な時間がかかるだろう。だが、南北アメリカの狭間にあるカリブ海研究からなぜクレオールのような思想が生まれるのかが見えてくる。》